肺非結核性抗酸菌症(肺マック症)/気管支拡張症

肺非結核性抗酸菌症(肺マック症)/気管支拡張症のイメージ写真

肺非結核性抗酸菌(NTM)症は気道局所のみが障害されるタイプ(結節気管支拡張型)と肺実質が障害されるタイプ(繊維空洞型)の2つのタイプに大別されます。日本で最も多い、人に感染を起こすNTMはMAC(マック, 80-90%)で、MACによる肺NTM症を肺MAC(マック)症とも呼びます。そのほか、M. kansasiiやM. abscessus といった菌が原因菌になることもあります。

気道とは、口からすった空気を肺実質(肺胞)に運ぶ空気の通り道のことです。NTMは自然水、土、ほこりなどの環境中に存在すため、日常生活でしばしばNTMを気道に吸い込んでいます。気道は常に外界と通じているため気道をきれいに掃除する機能(気道浄化作用)が備わっています。健康な人では外界からのNTMはこの浄化機能によってまもなく排除されます。なんらかの理由で気道浄化機能が低下すると、気道にNTMが住み着みついて増殖してしまいます。これが結節気管支拡張型の肺NTM症で、近年、中年以降の女性を中心に患者数が急増しています。ほとんどの場合は軽症で、進行も非常にゆっくりのため強力な治療を必要とすることは多くはありません。

また、このタイプは気道が拡張する気管支拡張症という疾患とオーバーラップします。NTMが感染することによって気管支拡張症をきたす場合と、もともと気管支拡張症があってNTMが感染する場合とがあります。気管支拡張症はNTM以外でも様々な原因で生じますが、病態の本質は気道浄化機能の低下です。NTM以外にも環境中や上気道の一般細菌が定着することがあります。

一方、線維空洞型は、気道だけではなく肺実質でNTMの増殖がおき、肺に穴があくなどして(空洞形成)肺の破壊が進行していきます。痩せ形の高齢者、肺に基礎疾患を有する人、糖尿病合併など、全身の抵抗力低下が大きな要因と考えられていますが、若者でも空洞形成することもあります。多剤併用化学療法や、時に外科手術を行うことが必要になります。現在、使用可能な薬剤で完全な治癒に至ることは難しく、病勢をコントロールし肺機能を維持するように努め、気長に付き合っていく必要があります。

肺NTM症や気管支拡張症の診療は疾患の長期経過に対する深い理解が不可欠ですが、経験の豊富な医師は極少数です。当院では、多数例の診療経験に基づいた治療管理を行います。